着物文化と和裁士

着物文化を次の世代に引き継ぐために

1300年もの昔から着物は日本の民族衣装であり、現在では、世界中からその美しさが注目されています。
最近では、昔と違い洋服が日常着として定着しておりますが、着物文化は後世に残すべき日本の大切な伝統文化です。
昔は、裁縫というと和服を仕立てることしかなかったのですが、洋服が普段着として定着してから、その仕立てと区別するために、大正時代後期に「和裁」と「洋裁」という言葉が初めて生まれたといわれています。

和裁は、一枚の反物を裁断し、全て手縫いで仕立てあげていきますが、これだけ現代の技術が進化しても、機械化することは難しい特別な技術です。
着物の伝統文化を発展させていくためには、着物を着る人が増えることと、美しい着物を造り出すことができるプロ和裁士を育成することが大切だと、私たちは考えております。
入学希望の学生の中には、お母様が着物に携わる仕事をしており、その姿を見て育ったため、自然と着物の世界に興味を持ったという学生もいます。
このように、着物の伝統文化を次の世代に受け継ぐことができることも、教育者としての大きな喜びです。

光り輝く着物の魅力

結婚披露宴会場などで、洋装のフォーマルウェアに身を包んだ招待客の中に、美しい着物姿の方がいると、思わず振り返ってしまうことや見とれることはありませんか。
着物の美しさはもちろんのこと、着物を着ているとおしとやかに見えます。着物を着た姿の美しさ、凛とした立ち居振る舞いなど、指先の仕草一つにまで女性らしさが増します。
もしかしたら、日本人を一番魅力的に輝かせられるのは、着物ではないでしょうか。
日本人の心の奥底に、着物に対する強い憧れや、美しい着物文化を作り上げてきた日本人としての誇りがあり、魅了されるのかもしれません。
私どもは、着物を仕立てるうえで大切なことは「美しく着やすい着物」「奥深い知識」「スピード」だと考え、4年間のカリキュラムを通して、和裁士に必要な知識と技術を身に付けます。

目指すのは美しく着やすい着物

洋服には、着る人によってサイズ展開がありますが、着物はフリーサイズだと思っている方が多いのではないでしょうか。
本来、着物は、着る人の身体に合わせて仕立てるオーダーメイドの着物が始まりでした。
最近では、着物を着るとなると、写真館や専門会社でレンタルして着る方が多いため、あまり知られていないのですが、日本人の平均的なサイズを基準とし、予め用意しているようです。
そのため、着る方の身長によって、見栄えが変わります。大きい着物を小柄な方に着付けることは可能ですが、着付け師の腕によっては見栄えが悪くなってしまいます。また、どんなに着付けが上手な方でも、小さい着物を身体の大きな方に着せることは難しいです。
背の高さだけではなく、腕の長さや体の厚みなど、人それぞれに体格が異なります。レンタルではなく自分で着物をあつらえようとして、もし一定の寸法だけで作ってしまうと、身体に沿わない着物が出来上がってしまいます。
その人にとっての、一番美しく着やすい着物というのは、「着る人の体型に合った着物を仕立てることが、美しく着やすい着物である」と私どもは考えております。

着物とともに日本文化を学ぶ

私ども奈良きもの芸術専門学校では、着物の仕立てや着付けだけではなく、豊かな心を育むために、華道や茶道などの伝統文化に触れることを大切にしております。
そのため、教育環境も大切だと考え、学園内には本格的な茶室まで完備しております。学生達は、茶道の授業を毎週受けることができます。また、校外の日本庭園や茶室をお借りした学校行事などのお茶会にも参加します。
学生達は、自分で仕立てた着物を着て、習ったお点前を披露することが楽しみになっているようです。このような日本の伝統文化に触れることも、着物を学ぶうえで大切なことだと考え、着物づくりにも良い影響を与えていると考えております。

最終目標は本物の和裁士を育てること

和裁の知識や技術が学べる専門学校は、たくさんあります。
学校ごとに様々な特色がありますが、私ども奈良きもの芸術専門学校では、「和裁特別専門学科」という特別な学科を設けております。
この学科では、プロとして独立することもできるほどの高度な技術と知識を有した「高度専門士」を育成することを目標としています。
単に、和裁の知識や技術を持っているだけの職人の育成ではなく、学生の将来を見据え、卒業後すぐに即戦力になりえる「縫えるだけでない人材」の育成を目指しており、その実力は様々な分野で認められています。

専門学校で学ぶことによって、着物についての知識や技術を身に付けることはもちろんのこと、自分の着物を仕立てる、日本の伝統文化についての歴史やその作法を学ぶこと、和裁を仕事とするうえで社会人としての必要なスキルにいたるまで、様々なことを学びます。

和裁士にとって必要なスピードとは

和裁士にとって、必要な「スピード」とは何でしょうか。
期日までに仕上げるためのスピード、と思う方もいらっしゃるかもしれません。
もちろん、期日も大切なことですが、着物をはじめ和服には、「糊気」というものがございます。この糊気が残っていることで、着物はパリッとした出来栄えになり、着こなしも美しく仕上がります。
そのため、着物はある程度の時間で仕上げないとこの糊気が無くなってしまい、長い時間をかけてしまうと、最終的によれよれの着物が出来上がってしまうのです。
せっかく一生懸命仕立てたのに、よれよれの出来栄えになってしまった、ということのないように、美しい着物に仕上げるため、期日までにここまで仕上げようという目標を立てて、学生たちは真面目に集中して課題に取り組んでいます。

最初はだれでも、素人です。学生も、1年生の浴衣製作の時は、仕上げるまでに10日~2週間ほどかかっていましたが、最終的には2~3日で仕上げることができるようになります。2~3日で仕立てられた浴衣は糊がきいているため、パシッとして粋に着こなすことができます。これを10日も待っていると、糊気が取れてよれよれの浴衣が出来上がってしまいます。
指導する側が、むやみに生徒をせかすことはないのですが、美しい着物を作り上げるためにかけられる時間というものを知ってもらい、そこを目指して学習していただきます。
最初からスピードを要求しても、初心者にとっては難しいことです。できるようになるにはどれだけ練習したか、どれだけ針をさしたか、どれだけの数の作品を作り上げたかに比例して上達します。

そのため、このスピード感を身に付けるために、最初から着物づくりを学ぶのではなく、さらしから肌襦袢を作る練習をし、その後浴衣を4枚ほど作っていきます。
そして、学校の教材に取り組んでいき、着物用の長襦袢を作成するといったカリキュラムが組まれています。 最初は何も分からなかった生徒が、自分で浴衣を仕立てることができるようになり、毎年7月に行われる七夕納涼祭には、自分で仕立てた浴衣を着て出かけて行きます。
一生懸命取り組んだからこそ、その喜びはとても大きいものです。その喜んでいる姿を見ると、指導する側も本当に嬉しい限りです。

指導は生徒一人ひとりに寄り添って

最初から着物に興味がある人、手に職をつけたいと思っている人、また日本文化に興味がある人など、和裁を学ぶきっかけは人それぞれあるように、一人ひとり学んだことを吸収するスピードも異なります。
また、講義を聞いて知識を得ることはできても、その理解度や、理解した内容を実技で表現できるようになるのにも一人ひとりスピードが異なります。
そのため、生徒一人ひとりに合った進め方、教え方をするということを、授業では常に心掛けております。
生徒それぞれの性格や個性を知り、寄り添っているからこそ、何が理解できていて、何が理解できていないのか。どのように伝えたらその生徒は一番理解しやすいのかを、大切にしております。
それは、学ぶことは単にカリキュラムをこなすことが目的ではなく、「一流の和裁士を育成すること」が一番の目的だと考えているためです。
必要であれば、何度も何度も繰り返し指導して、一つ一つ習得していきます。講師陣がそのような指導を行うため、学生も常に、真面目に一生懸命取り組んでくれます。そのため、結果的にはプロの和裁士を一番早く育成できるのかもしれません。

自営和裁士を育てる意味

自営和裁士とは、その名の通り、企業やメーカーに所属せず、独立して着物の仕立てを仕事とする和裁士のことです。
和裁士は、比較的女性の方が多く、働く場所や時間に拘束されず、活躍することができます。卒業してすぐに自営和裁士になる方もいれば、最初は企業に就職したものの、その後結婚や出産を期に一旦仕事を離れ、家事・育児に専念した後に自分の時間ができるようになると、再び自営和裁士として活躍する方もいらっしゃいます。
このように、子育てとの両立をしている方もいらっしゃれば、実家や嫁ぎ先の稼業と両立している方も大勢いらっしゃいます。大きな機械や特別な設備も必要としないため、働く場所にも制限がありません。このことも、続けやすい理由になるのでしょう。
また、洋服と違って、流行に左右されないため、洋裁よりも長く続けられるという利点もあります。
手に職をつけることは、一生ものの財産を身に付けることと同じです。そしてこの仕事は、特に定年がないため、自分が望む限り仕事を続けることができます。
卒業生の中には、着物の仕立てだけでなく美容院で花嫁さんの準備の手伝いや、成人式での着付けを請け負う仕事も、副業で行っている方もいるようです。着物に関する知識や技術の幅が広いため、活躍の場が広がるのも本校の特徴です。

着付け師としても一流に

着物姿に憧れを持ちながらも、自分では着付けができない人にとって、着付け師は大切な存在です。もちろん、教育カリキュラムでは着付けについても学んでいきます。
この着付けも、着る人それぞれの体型が異なるため、必ずしもその方の体型に合った着物を持参されるとは限りません。そのような時にどのような対応をするかが、着付け師の腕の見せ所ともいえます。
和裁の知識と技術を兼ね備えた着付け師であれば、お客様の着物が少々ほつれていた場合でもすぐに繕うこともできます。着物のことを知り尽くしているため、どのように着付けたら着物姿を一番美しく見せることができるかが分かります。
着付けができる人は数多くいるかもしれませんが、着物のことを知り尽くした着付け師となると、大変貴重な存在です。
着物の専門学校で学んでいるからこそ、一流の人材を送り出すことができるのだと考えております。

卒業生の活躍が教える側の大きな喜び

私どもは、学生の卒業がゴールだとはとらえておりません。
一人前の和裁士として活躍してこそ、社会に送り出すことができたのだと考えております。
そのため、カリキュラムの中にはマナー実習を始め、履歴書の書き方、面接の実技指導まで、専門の講師が指導しております。
これも、生徒が希望する職場に就職することができ、学んだ知識と技術を十分に発揮してもらいたいと考えているためです。

ある時、こんな出来事がありました。卒業生が就職した会社で活躍した後に産休をとり、一時的に仕事を離れていました。その休んでいた期間に、企業の方が学校に来られ、産休中の卒業生に代わり、着物の仕立て直しについて意見を求められました。
この出来事から、本校の卒業生は企業から頼りにされ、なくてはならない存在として頑張っていることが分かり、大変嬉しく思いました。
また、企業への就職の他に、自営和裁士を目指す学生には、和裁士独立サポートを行っております。これは、自営和裁士として独立して頑張っていけるように卒業生をサポートする独自の制度です。
地方によっては、卒業後すぐに安定した収入を得ることが難しい場合があります。
しかし、このサポート制度を利用することで、学園が卒業生に仕立てを斡旋することができるようになります。

着物文化をさらに輝かせるために

昔に比べて、着物を着る機会が減ってきているのは事実です。
しかし、この素晴らしい伝統文化を、これからも次の世代へ繋げていかなければなりません。そのためには、着物を着る人を増やすことが大切です。
着物を着なくなった理由として、一人では着られないという理由もあったことから、洋服のように上下が分かれた二部式着物という新しい着物も作り出されました。洋服のように気軽に着ることができ、着物に着なれない方でも簡単に着ていただくことができます。
昔からの着物の形に拘らず、着物を着る人を増やすための工夫の一つです。本校では、このような二部式着物のカリキュラムも、学科によって用意しています。
夏になると、浴衣を着る方は多いと思います。浴衣を入り口として、ここから着物へ、一人でも多くの方が興味を持っていただけたら嬉しい限りです。

和裁士を目指す方へ

着物作りは、一枚の反物を裁断して手で縫い上げるという、とてもシンプルな作業です。
着物の作り手として、私たちが常に心掛けていなければならないのが、この着物を着る人の気持ちを常に考えて仕事に取り組むことです。
技術を学んで着物を仕立てられることはできても、一流の和裁士になるのは、決して簡単なことではありません。そのためには、基本的な練習を根気よく、こつこつと繰り返し練習することが大変重要です。
どんな分野であっても、基本的な技術が身に付いていないと、結果に大きな違いが出てきます。
和裁士は、一人でこつこつ仕事をすることがほとんどです。そのため、このような根気や集中力が和裁士には必要となります。基本の技術が身に付いた後に、一枚の反物を自由自在に操れるようになる楽しさや喜びを知っていただけるように指導します。
大変な世界ですが、伝統があり、自分自身の頑張り次第で大きく飛躍できる世界でもあります。
これから和裁士を目指す方は、「着物を着て喜んでもらいたい」「その人の子供や孫の世代にまで着続けてもらいたい」という、そんな想いを持って針をさしていただけたらと思います。
また、必ず和裁士になるという、着物の知識と技術を全て身に付けるという覚悟で、これからの勉強や実習に取り組んでいただきたいです。

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